今回は滋賀県民にとって残念なお知らせになります。
1976年(昭和51年)6月開店以来、滋賀県初の西武百貨店として44年間愛されてきた「西武大津店」が2020年(令和2年)8月31日をもって閉店します。
そこで筆者は閉店間際の西武大津店を訪ね、現在の様子を撮影し、開店当時の様子や西武大津店が大津市に残した足跡などを取材してきました。
ありがとう!西武大津店
西武グループの創業者・堤康次郎氏は滋賀県人です。
戦前から伊豆・軽井沢などの開発に力を入れ、その後は百貨店買収、鉄道事業、ホテル・レジャー、不動産などさまざまな事業を展開してきました。
西武グループ
堤康次郎氏の死去後、西武グループは二つに分裂してしまいます。
康次郎氏の息子二人(異母兄弟)が跡を継ぎました。
西武鉄道グループ(弟・堤義明氏)と西武流通グループ(兄・清二氏)です。
西武鉄道グループ
西武鉄道グループは戦前からの土地開発事業(国土計画→のちコクド)の流れをくむ事業グループで、鉄道のほかにプリンスホテルや西武ライオンズなどは有名ですね。
父・康次郎氏の故郷、滋賀県の近江鉄道ものちに傘下に入れています。
西武流通グループ
こちらは西武百貨店、西友、ファミリーマートなどなど…、のちにセゾングループとして一時代を築き上げます。
プロ野球の西武ライオンズが優勝すると、西友でセールをやっていたのはこのためです。
そのつながりもあってか滋賀県は埼玉西武ライオンズのファンが多いです。
阪神ファン、巨人ファンを凌いで、西武ファンの人口は県内No.1です。
意外に思われるかも知れないですが西武は滋賀県のシンボルです。
しかし時代の流れには勝てず、西武大津店は閉店することになりました。
今回は開店当時の熱狂と衰退への軌跡をお伝えします。
西武大津店の概要
所在地
西武大津店は大津市の「におの浜」に所在します。
1960年代の琵琶湖岸埋め立て計画で出来た土地を開発して建てられました。
この地には西武大津店の他に大津パルコ、びわ湖ホール、びわ湖大津プリンスホテルなどが次々に建てられ、大津市文化の中枢を担っていくことになります。
膳所駅・ときめき坂
西武大津店の最寄り駅は膳所(ぜぜ)駅になります。
ほぼ同じ位置にJR膳所駅と京阪膳所駅があり、そこから「ときめき坂」を下って西武大津店に向かいます。
この「ときめき坂」も飲食店や衣料店が並ぶオシャレな坂なのですが、西武大津店の閉店後の客足が心配されます。
西武大津店の動画
1976年6月18日・オープン
勢いに乗る大津市
当時、大津市は勢いに乗っていました。
1968年(昭和43年)、湖岸埋め立て計画で誕生した土地で「びわこ大博覧会」を成功させると、1974年・近江大橋開通、そして1976年にこの西武大津店が誕生します。
「6月某日、びわ湖に出るぞ」
それは、ひょんな新聞広告から始まったそうな…
「6月某日、びわ湖に出るぞ」の大々広告!
何が出るかとフタを開ければ、県内初の西武百貨店!!
華やかな店内
最上階の6~7階の吹き抜けには三角の温室があり、草木が生い茂り水が流れ小鳥が飛んでいたそうです。
洗練されたデザイン
西武大津店は建築家・菊竹清訓(きくたけ・きよのり)氏によって設計され、当時では斬新な設計で話題を集めました。
琵琶湖型の吹き抜けとオープンテラス
吹き抜けは琵琶湖型といわれ、吹き抜けをつなぐ橋は琵琶湖大橋に見立てて造られていました。
オシャレな非常階段
西武大津店の特徴の一つに、この非常階段がある。
今回筆者が訪れた際も、この階段を撮影する方の多いことに驚いた。
全階テラスといい、この非常階段といい、完全な箱型が基本だった当時の百貨店の中では斬新さが際立っていた。
ただし、この設計の背後には当時大型デパートの火災が相次ぎ、すぐに外に逃げられる為の設定だったとも言われている。
落日の西武大津店
大津市の微妙な立ち位置
大津市は滋賀県の県庁所在地にもかかわらず、新幹線にも特急にもスルーされます。
しかも西武大津店の最寄り駅・膳所駅は新快速が停まらず、大変不便なのです。
すぐ近くに京都市があるので、買い物客は当然京都に流れていく。
車社会の滋賀県と草津市の台頭
さらに、滋賀県は車社会なので、大半は自家用車で買い物に行く。
大津市周辺は渋滞が慢性化、車で行くにも不便である。
近年、草津市の発展が目覚ましく、大きなショッピングモールもあるので、大津市民でも瀬田川を渡って草津市へ買い物に行くそうだ。
これが客足が遠のいた決定的な要因なのです。
さよならセールに行ってきた
「44年のあゆみ展」
先日、筆者が訪れた際、7階のフロアで「西武大津店44年のあゆみ展」が催されていました。
これは現在高島市マキノ町で建築事務所を営む本田明さんが、西武大津店開店当時に撮影した貴重な写真の数々が展示されており、開店当時の活況な様子がうかがえた。
今回、当記事作成にあたり当時の写真の掲載の許可を申し出たところ、本田さんから快諾のお言葉を頂いたので、掲載させていただいてます。
「惜別」の寄せ書き
まとめ
以上、西武大津店閉店の記事でした。
今後、この地にはマンションが建つそうです。
時代の流れとともに消えゆく百貨店…この西武大津店も例外ではありませんでした。
だけども西武大津店が大津市民…いや、湖国県民の中枢として輝いていた時代があったのも事実です。
筆者は、そんなかつての西武大津店の華やかな歴史の1ページを垣間見れて良かったです。
今はただ別れを惜しみましょう・・・
西武大津店の関係者ならびに従業員の皆様、長い間お疲れさまでした。
そして今回、開店当時の写真の掲載の許可を頂いた本田明様、ご協力ありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。